念には念を。今回ばかりはそれが災いしたようだ。
私はその日、いつものように用を足し、念入りにケツを拭いた。
というか、念入りに拭きすぎた。
チクリという感覚とともに、肛門から刺すような痛み。
こうして私は、切れ痔になった。
【一日目 「なんか痛い」】
なんか痛いと感じたのは、前日の夜の話。一晩寝れば治るだろうと思っていた。
しかし甘かった。
起きてベッドから降りようとした瞬間、
ズキン
まじで痛い。眠気はふっとんだが、爽快さのかけらもない。
こうして、奴(←切れ痔)との戦いの日々が幕をあけた。
ちなみに家族には笑われた。
【二日目 「どうにも痛い」】
起きた。痛い。朝っぱらからテンションが下がる。
この日から私は、近所の博物館でアルバイトを始めることになっていた。
休んで肛門科にでも行こうかと一瞬考えたが、結局出勤。
私が配属されたのは、基本、カウンターの中での業務だが、ときどきカウンターをくぐって外に出なければいけない。
そのためにしゃがんで歩こうとすると
激痛。
その様子を見た先輩アルバイトさん(稲森いずみ似の綺麗な女性。マジ。)が、心配そうに声をかけてくれた。
「腰でも悪いんですか?」
いえ、尻です。
なんとかかんとかバイトを終えて帰る途中、友人からメールが来た。
「最近どーよ??海とか行った?(^o^)」
塩水が染みて海なんか行ってらんねえ。
【三日目 「やたらと痛い」】
今日も奴(←切れ痔)との戦いが幕を開ける。
そして今日もバイトである。
スーツで一日動き回ったあと、そのまま英会話教室へ。
到着と同時にマネージャーのお姉さんから、予想通りの社交辞令。
「あれ?今日スーツじゃないですか!カッコイイですね〜☆」
痔ですけどね!!!!
とか言ってみようかと思ったものの、結局言わず。
スクールの後は、今度は家庭教師のアルバイト。なかなかハードスケジュールな一日だ。
授業をしていると生徒がおもむろに話しだした。
「僕、今度好きな女の子に告ろうと思ってるんですよ!」
どうだっていい。肛門が痛くて、それどころではない。
【四日目 「かなり痛い」】
この日は参議院選挙だった。
私は、選挙の出口調査のアルバイトをすることになっていた。
朝早くに、私の受け持ち地区へ向かう。相方と一緒に昼ごろまで、アンケートをとる。
集まりは順調。
ボロい仕事だぜ!と思っていたところ、雇い主から悪魔の電話がかかってきた。
「○○地区の集まりが悪いみたいだから、タクシーで移動して応援に行ってくんない?」
「・・・まじすか。」
そのとき私たちがいた場所から、応援に行く場所までの移動距離、実に130km。
しかもタクシーで移動って・・・。
ワタクシ痔なんですけど!!!!!
もちろん逆らえるわけもなく、ケツの痛みが治まるわけもなかった。
【五日目 「やっぱり痛い」】
起きる。やっぱり痛い。
この日は午後があいていたので、ついに病院に行くことにした。
・・・バイクで。
振動がケツにきて痛かった。
病院にて。
医者「ちょっと腫れてますねー。しばらく薬を服用すれば治りますよ。」
私「え・・・腫れてるんすか?」
いよいよ奴(←切れ痔)が、真の姿を現した。
奴の正体は切れ痔ではなかった。
イボ痔だった。
医者にもらったのは、炎症止めの飲み薬と、痛み止めの薬。
そして肛門に注入するタイプの塗り薬。
塗るのが大変そう・・・。それを見た母が言った。
「塗ってあげようか?」
丁重にお断りした。
【その後】
毎日薬を塗るようになると、わりとすぐに痛みは引いて行った。
その1ヵ月後、私はオーストラリアにホームステイに行った。
念のため、痔の薬も持っていった。
空港にて。カウンターの人から注意を受ける。
「オーストラリアは食べ物の持ち込みが厳しいので、口に入れるものは持っていかないようにしてくださいね。」
尻の穴に入れる痔の薬は大丈夫なんでしょうか?
という質問が喉まで出かかったが、それを飲み込み出発した。
(完)